マンション管理規約改正による専門家活用の本質

2011年以来となる約5年ぶりにマンション標準管理規約が改正され、これまで区分所有者が中心となっていた理事長を含む理事や監事を外部へ委託することが可能となる。マンション管理士などの専門家の活用を促すことと、理事のなり手不足を解消し、質の高いマンション管理運営が狙いのようだ。(理事長や監事の役割については下記リンクの記事を参照してほしい。)

これまでは区分所有法にも精通せず、管理そのものについて専門的な知識を有しない住人らが中心となった役員に専門家を迎えるコトでより有機的なマンション管理が運営されていくことが期待される。しかし、問題となるのがこういった専門家を新たに雇うことにより発生する管理コストの増加や、管理運営の複雑化によるより巧妙な横領事件発生リスクが挙げられる。

何かを得るには何かをあきらめなければならないのがトレードオフの常だ。要点としては、得られるであろう利点と、あきらめる必要がある点であろう。

 

専門家を迎える利点

得られるであろう利益は、外部のどんな専門家に、どのポジション(理事長、理事、監事)に就任させるかで左右される部分がある。不動産コンサルタントやマンション管理士などが当てはまってくる。マンション管理士に関しては、厳しく厳罰する法令が存在しているため不正による登録の取り消しはそれなりの抑制力を発揮してくれる。不動産コンサルタントはバックグランドや知識を裏付ける資格があれば問題ないだろう。

これまではマンション管理会社の言いなりになっていたようなマンションに関しては、雇い入れる専門家が健全な反対勢力としてワークできれば効果は高い。例えば、無駄な有料作業・工事を見抜くようなコトだ。基本的に「管理」は全てお金に直結する。しかし、どれくらいのコストが適正なのかまでは、素人にはなかなかわからないからだ。

大規模修繕をしていくようなタイミングにあるマンションに関しては中心となってまとめる力が期待できるため、他の役員への負担軽減が望める。また、上記同様に管理会社斡旋の修繕業者のみに頼り切るようなやり方ではなく、管理組合主導で信頼のできる修繕業者を探すようなコトも可能になるだろう。そうすれば、競争の原理を取り入れられることにより、修繕コストそのものを安くできるかもしれない。出費を抑制できれば間違いなく大きなメリットだ。

注意点として、間違っても管理を委託しているマンション管理会社のスタッフに就任させるようなことがあってはならない。マンション管理会社の収益につながるように理事会からコントロールされてしまう可能性があり、専門家の雇い入れそのものが利益相反になるからだ。

どのポジションに就任させるかは、専門家の適正を検討して決めることが望ましい。現段階では、理事長ではなく副理事長以下のポジションが良いかもしれない。専門家が常に正しい保証はないため、区分所有者が中心となって理事会を運営できる体制は残しておいた方がベターだろう。専門家にはサポートに徹してもらうべきだ。

 

あきらめなければならない点

 

専門家へ役員になってもらうということは、有償で委託するというコトだ。これは、費用が発生するという意味に他ならない。専門家への費用を100%圧縮できないまでも、ある程度圧縮する方法はそれなりにあるはずだ。というのも、管理会社へ委託している仕事内容全てが管理会社でないとできない仕事内容ではないからだ。これを役員就任サービスの中に含め、管理会社からは仕事量が減った分を値引きしてもらうというような方法だ。

究極のところは、専門家を無理に迎え入れる必要もない。専門家へは都度スポットで相談をお願いすれば済んでしまうコトも多く、毎月恒常的に発生する費用を我慢する必要性はどこにもない。マンション管理会社の管理業務主任者も立派な専門家というコトは付け加えておきたい。実務で2年以上の経験と国家試験をパスする費用があるコトからマンション管理士よりも長けている部分もある。マンション管理士は実務が問われないコトから、管理業務主任者の方が何枚も上手なのが実態かもしれない。

 

まとめ

結局のところ、任せっきりにする精神がある限りは、どの専門家に頼んでもあまり利点が出ないのが本質だ。自分たちの資産だと思って合理的に確認しながらこれまでどおり管理会社と二人三脚で進めるコトで十分に管理はできてしまう上に、専門家と恒常的な契約はせずに、自主管理で運営できているマンションさえも存在している事実がある点にも目を向けるべきだろう。専門家活用は目的達成の手段にすぎない。標準管理規約はただの指針だ。法律で強制されているモノではない。