マンション競売請求による区分所有関係からの排除

(2016年1月26日寄稿の記事です)

600万戸以上ものストックがある日本のマンション市場。これだけの戸数があれば、問題の数も尋常ではない。その中でも特に厄介な問題の一つが、通常の生活が阻害されるようなケースや、特定の区分所有者による管理費等の滞納問題が浮かんでくる。多くの人にとっては一生に一回の買い物として30年前後のローンで購入した方も多いことから、これらは本当に深刻な問題だ。しかし、深刻な違反者を区分所有関係から完全に排除するための条項が区分所有法で定められており、対処のしようがないわけではない。

 

競売請求

まずは、区分所有法第59条の抜粋に目を通してほしい。

区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害 を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。 

ポイントは、裁判所への訴えによってアクションを起こしていくことになる為、最終的には裁判所の判断に委ねることになる点だ。上記条文中にある「集会」は議決権の3/4以上の賛成を必要とする特別決議が必要となる。また、競売請求は「差し止め請求」や「使用禁止請求」を考慮しても対応できない場合に有効となる要素があり、持ち込まれるケースによっては「使用禁止」でも良いのではと、裁判所が「競売請求」を認めてくれない場合も頭に入れておく必要がある。

裁判に当たって原告側にとって有利となる判決を得る為には、決め手となる証拠がとても大きな要因になってくるのは言うまでもない。またこの証拠の中には、「差し止め請求」等の警告を発した事実関係も含まれると考えてほしい。先にも述べた通り「差し止め請求」や「使用禁止請求」を考慮しても対応できない状況にあると裁判所に示す必要があるからだ。(差し止め請求や使用禁止請求に関する内容は過去の記事参照のこと)

事例

どんな場合に競売請求がなされてきたのか判例を簡単に交えながら記したい。まずは、騒音や振動の発生といった迷惑行為。ケースにもよってくるが明らかに異常なレベルである事を数値化することで立証しなければならないと考えてほしい。というのも、騒音に関しては建築基準で定められた範囲内の騒音レベルでは、原告の訴えは虚しくも棄却されてしまう。逆にこれが立証でき、なおかつ他の住人もその騒音を認知しているような場合には競売請求の訴えが通りやすいようだ。

そして、事例として圧倒的に多いのが、多額(長期間)の管理費滞納のケースだ。ただし、注意が必要なポイントとして、判例としては訴えが認めらたケースも、そうでないケースもあり微妙な判決も多いようだ。例えば、數十ヶ月にも及ぶ管理費滞納があり、その間に督促などを実施したにも関わらず全く払う姿勢が見られなかったため、管理組合が競売請求に踏み切った。しかし、動産物(不動産ではないもの)を回収する手立てがまだ残されており、被告(違反者)も和解の申し出により滞納分を支払う姿勢を見せたという理由から競売請求が跳ねのけられてしまったケースがある。原告からすれば相当不満の残る判決に違いない。

積極例と消極例の両方が存在ことを頭の隅に置いておいた方が良いかもしれない。

3つの重要ポイント

  1. 競売請求の本質は、区分所有関係からの排除であって、債務の回収を図ることを目的としていない点だ。これは、仮に競売請求の訴えが認められても必ずしも滞納されていた管理費等を回収することができないコトを意味している。債務は競売により同室を買い受けた特定承継人から回収すると思ってもらえればいい。
  2. 競売請求の訴えが認めらる判決が下された場合には、判決の確定日から6ヶ月以内に裁判所に競売の申立てをしなくてはならない。そうしなければ競売そのものが進まないコトになっている。確定判決が出たら半年以内に必ず申立てをするようにしないと訴訟そのものが水の泡となるため注意が必要だ。
  3. 原告にとっては不条理な事例となるが、競売請求の訴訟における口頭弁論終結後に被告である区分所有者が、他人に区分所有権と敷地利用権を譲渡した場合には譲受人に対して当該訴訟の判決に基づいて競売の申立ができなかった判例がある。ちなみに、これは最高裁判決だ。区分所有関係から違反者が離れるなれば競売は必要性はないと考えればわかりやすい。

まとめ

兎にも角にも証拠を押さえること。または証拠となる記録を残すこと。その上で、集会で他の住人も認知しているか確認し、「差し止め請求」や「使用禁止請求」といった選択肢が先に取れるかどうかきちんと状況を抑えながら議論し、合理的な方向を定めること。差し止め請求は裁判所への訴えがなくても集会決議だけ実行できる部分があるため先にこの請求は実行しておいた方がベターだ。その上で、専門家に相談し、競売請求を訴えるかどうか決定していくと良いだろう。